がいなくなり、青年が里を抜けて十年ちかくが経ったころに、姉弟が生まれました。
お姉さんと上の弟はごくごく普通の子供でしたが、一番下の弟は、血を好む殺戮者に生まれました。
そんな弟と一緒に育ってか、上の弟もだんだんと凶暴になりました。
ですが、数年たったある日、下の弟は驚くほど大人しくなり、いつしか里の皆から愛される若者になりました。
上の弟は、以前から感じていた取り残されたような焦りが身にしみていきました。
いつしか上の弟は、の愛した青年と一緒の人形師になっていました。
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暗い部屋。
響く悲鳴。
そして、それを聞いている兄弟。
ただ、時がゆっくりと流れる。
「・・・カンクロウ、見たところこの実験室はこの一室を真ん中にして右に進んで一つ、左に一つあるようだが・・・」
「ぁあ、だが実験室には俺とお前、2人しかいない」
「ということは・・・」
「どこかにもう一部屋あるな」
カンクロウは立ち上がってすっと目を閉じた。
我愛羅は静かにカンクロウのすることを見ている。
その間にもカンクロウは手を前に合わせて青白い糸をあたりに張り巡らせている。
長い時間がたって、いい加減イライラしてきた我愛羅は耳を済ませて、声が聞こえてくる方に足を進ませた。
「我愛羅、のいてろ」
進めた足の先は2人がいた部屋のちょうど壁に突き当たった所。
カンクロウは我愛羅が壁に手をかざそうとしたちょうどその時に弟を制した。
「・・・今更になって言うのもおかしいが、この建物、ここのところだけやけに厚くなっていたな。
この部屋があるってことで大方納得いったが、まだ、広さが足りない。
この先に何かあるのか?」
素直にカンクロウの言うことを聞いて隅によけた我愛羅は、どこか哀愁の漂った声で兄に問うた。
「これは、俺が生まれる前の話なんだが・・・」
先ほど我愛羅がいた位置に糸を集結させたカンクロウは額に汗の玉を大量に浮かべながらチャクラをこめる。
「以前、ここの実験室は、この部屋を入れて四つあってなぁ・・・。
ここは外的要因の毒、左は神経系、右は内臓に直接支障をきたす毒を開発していた。
まぁ、今言ったのはこんにちも行われている。が・・・」
がくがくと指先が震え始め、それでもカンクロウは壁から集中力を離さない。
みるみるうちに壁に一筋の線があらわれ、不気味な青白い光を発している。
「今、お前が居たところは。
当時異様に実力を伸ばし最盛期にいた赤砂のサソリが指揮、実権の全てを握っていてな。
そこでは、生きた人間を使った人傀儡の開発が行われていたんだ。
ま、皆痛みに耐え切れずに死んじまったらしい」
「・・・開発、じゃないだろ。
明らかに人間に対しての冒涜だ」
光に照らされた我愛羅の顔は色も手伝ってかいつもより青白く見え、一際淡い唇が美しく目を引いた。
す、と光の溝に手を伸ばすが邪魔をするなとカンクロウに止められる。
「きついな、これ・・・。
で、だ。
この話には続きがあって、ある日サソリがという女を連れてきた」
「・・・砂の三大女傑の一人か」
「ああ。
どうやら2人は恋仲で、共に任務を沢山こなしていた。
そんなある日、がサソリと第四の実験室へ入っていったそうだ」
そこでいったん言葉を切ったカンクロウは木の葉の忍のいのが使う心乱身の術に似た印を組み、一際強く念をこめた。
ぼぅ、と一層光が強くなり、我愛羅は眩しさで手を目の前にもってきた。
「いくら・・・待っても二人は出てこない。
それどころか、しばらくたって隊員たちが戻ってきたら第四実験室は跡形もなく消えていて、サソリは姿をくらました。
早い話が、里を抜けたわけだ。
く・・・」
「無理するな。
手から血が滲んでいるぞ」
チラリとカンクロウの手を見た我愛羅だが、すぐに壁の溝へと視線が移る。
少しずつだが、開いてきているのだ。
「最後まで聞けよ・・・。
くぁっ・・・・。
はぁ・・・はっ・・・それ以来、は行方が知れない。
全て古参の隊員から聞いた話だが、真実はどうだか知れないが、もし本当だったら・・・」
「がこの向こうにいる、か?」
「ビンゴ」
壁が左右に割れていくにつれて、カンクロウの手の怪我も酷くなっていく。
痛みに顔をしかめながらも、カンクロウは戌、酉、巳、申の印を目にも留まらぬ速さで結んで、叫んだ。
「傀儡殺法第六奥義・閉暗解明!」
轟、酷く大きな風が吹き、我愛羅の深紅の髪を乱していく。
軋、閉ざされていた扉が音を立てて開く。
カンクロウはその場に倒れこんだ。
慌てるでもなく傍によっていった我愛羅はゆっくりと兄を起こし、持っていたサラシで血止めをした。
「禁術か?」
「いや、ただ消耗が激しいから皆が使わなくなっただけだ」
「禁術じゃないか」
そこで我愛羅は口を閉じ、顔を上げた。
カンクロウも我愛羅に習って面を上げる。
「赤い髪・・・でも、あなたは誰?
傀儡使い・・・でも、あなたも違う。
サソリ様は・・・?」
裸にしたマネキンのような身体。
ガラスの目。
でも、美しい女性。
わき腹を貫通している美と書かれた筒が痛々しい。
「初めまして、さん。
四代目傀儡部隊第三隊長、カンクロウじゃん」
「五代目風影、砂漠の我愛羅」
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マネキンは、ただ前を見て己の行く末を案じている。